MICEトレンド

2018年2月13日

東京のMICE戦略とは?東京観光財団 コンベンション事業部長 戸田加寿子氏が語る

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観光庁は2017年4月、日本国内で開催された国際会議(2016年)の経済波及効果が、約5,900億円だったと発表した。これを牽引するのが日本の首都 東京。この東京で、国際会議だけではなく、報奨旅行や企業等の会議、展示会・見本市、イベント等のMICE(Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Event)を誘致・開催支援する事業を行っているのが東京観光財団(TCVB)だ。今回、東京観光財団 コンベンション事業部長 戸田加寿子氏に東京のMICE戦略について話を伺った。

 

アジェンダ

  • セッションだけの国際会議では参加者の満足は得られない
  • MICE 勝負!東京 VS. シンガポール
  • MICE開催は設計が重要
  • オリンピック、パラリンピックによるMICEの影響は?

 

セッションだけの国際会議(MICE)では参加者の満足は得られない

 

大学卒業後、新卒で旅行代理店に入社した戸田氏は、国際会議のオペレーション部門に配属された。その後、縁があり東京観光財団(TCVB)に移り、現在は同財団で、MICE全般の誘致・開催支援、MICE受入の環境整備や人材育成、東京都内のビジネスイベンツ先進エリアへの支援等の事業統括を行っている。インターネットが普及している今、会議やイベントはネットで行い、MICEのようなFace to faceのビジネスコミュニケーションは減っているのではないかと思われるが、その件数は逆に増えているという。

その要因について戸田氏は、「会議参加者が会議に求めるものとして、セッションはもちろんだが、Meet the expertやネットワーキングへのニーズが強くなっている」と語る。Meet the expertは、会議の発表者に対して、その場で質問ができること。国際会議では、世界最先端の研究をしている研究者が発表するケースも多く、そういった研究者に直接質問できるのは普段中々できない体験だ。リアルなコミュニケーションの場ならではの感動体験だろう。

ネットワーキングは参加者同士がレセプション等で人脈を広げること。同じ会議に出席しているということで、出席者同士、共通の課題を持っている可能性が高い。そこで得られた人脈はその後のビジネス展開や共同研究等に結び付きやすいという。

東京観光財団 コンベンション事業部長 戸田加寿子氏
東京観光財団 コンベンション事業部長 戸田加寿子氏

MICE 勝負!東京 VS. シンガポール

 

国際会議の開催件数は年々増加している。UIAが発表したInternational Meetings Statistics Reportによると、2006年の国際会議件数7,653件に対して、2015年は11,864件と55%増。中でもアジアの開催シェアは2006年の15.3%から2015年 30.2%と高まっている。この背景に「アジア経済の高成長がある」と戸田氏は指摘する。「国際会議を主催する国際団体は、会員数を増やしたい思惑がある。経済成長が伸びている地域は、会員になる企業や研究者等が多い」という。

国別に開催数ランキングを見ると、1位 韓国、2位 ベルギー、3位 シンガポール、4位 アメリカ、5位 日本。都市別では、1位 ブリュッセル、2位 シンガポール、3位 ソウル、4位 パリ、5位 ウィーンで6位が東京となっている。

なぜ、シンガポールが強いのか?の問いに、「シンガポールは、ハードとソフト、両方をバランス良くそろえている」(戸田氏)と分析する。ハードは、大規模展示会場や統合型リゾート(IR)を整備。その代表格が、マリーナベイサンズ。同施設内にあるサンズ・エキスポ&コンベンションセンターは、面積が12万㎡を超え、多目的スペースや250の会議室等、多種多様なスペースを用意している。他にも、ユニークベニューとして、巨大植物園のガーデンズ・バイ・ザ・ベイも活用、主催者の多彩なニーズに対応している。ソフト面では、シンガポール観光局(Singapore Tourism Board:STB)がMICEを推進。民間と連携、開催資金を主催団体に助成する等、さまざまなサポートを行っている。

一方、東京は、日本でグローバルMICE都市に選ばれ、観光庁からMICE誘致力を上げるための支援を受けている。支援内容は、海外のコンサルタントによるMICE都市としての客観的な評価・分析、ステークホルダーとの連携強化、人材育成等だ。

東京のMICE戦略におけるハード面では、ビッグサイトや国際フォーラム、グローバル展開しているラグジュアリーホテルをはじめ、続々建設されるオフィスビルの会議室等、多種多様な会場を有している。研究機関や大学、企業の本社機能が多数あるのも強みだ。活用できるユニークベニューも多い。2017年5月には「世界女性サミット(Global Summit of Women)」の晩餐会が迎賓館で開催された。他には神社での500人規模のレセプション開催や、東京都美術館、東京都写真美術館、東京都庭園美術館、江戸東京たてもの園、浜離宮恩賜庭園、清澄庭園、葛西臨海水族園、東京都庁45階展望室でMICEを開催することも可能だ。ただし、ユニークベニューはMICE用の施設ではないため、「電源、ネット環境、照明、食事等、準備が大変な面もある。専門家に相談して欲しい」(戸田氏)とした。

東京ビッグサイト
東京ビッグサイト

ソフトの戦略は、国際会議の誘致団体に対して誘致や開催資金の助成金、観光ツアーや空港でのウェルカムバナー、日本文化体験等を提供してる。

MICE開催は設計が重要

 

国際会議の誘致は国内のイベントよりスタートが早い。開催まで2年を切るケースもあるが、早いケースだと10年先のものを誘致する場合もある。平均すると3年ぐらいか。誘致は都市間でコンペになるケースがほとんど、その勝率は、「イチロー選手の打率よりは高い」(戸田氏)とした。長い年月をかけて誘致活動を行うが、誘致できるとそのメリットは大きい。中でも、経済波及効果と都市のプレゼンス向上が効くという。

近年で特に経済波及効果が大きかったMICEは、2012年東京国際フォーラム、帝国ホテル、ホテルオークラ等で開催された国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの年次総会だ。東京における経済波及効果は約189億円。日本全体では、250億円にもなるという。さらに、その会議期間中に東京の各エリア(銀座、日本橋、大手町等)で日本文化を体験してもらうおもてなしイベントが行われ、各エリアがMICE受入を推進する契機となった。これは、IMF・世銀年次総会が東京に残したレガシーともいえるという。

これ以外にも多数の国際会議が開催されているが、その開催をスムーズに進めるポイントとして戸田氏は「MICEは、基礎の計画、設計が非常に重要」と語る。設計に甘さがあるとリカバリーに時間がかかるとした。ある5,000人規模の国際会議で、約1,000人の参加者にビザ取得が必要になるが、主催者はそのビザ申請に必要な経費を予算化していなかった。急遽、さまざまな調整をする必要が出てしまい、相当な時間が取られたという。多くの国際会議は設計段階で予算が決まる。設計は、抜け漏れがないようプロの専門家の支援を受けるとよい。

その設計で、表に出てくるものとして重要なのは、「MICEにはそれぞれ特性がある。その特性にフィットする会場を選ぶこと」だと戸田氏は強調した。さらに、「国際会議では会場使用計画を作成する。その段階で、会議と会場の相性がわかる」「相性が良いと感じたら、その会議は必ずうまくいく」と語る。国際会議には多数のセッションがある、それとさまざまな会場スペック、さらにはフロアレイアウトやスムーズな導線等がピタッとあうかどうかを相性の例として挙げた。

 

オリンピック、パラリンピックによるMICEの影響は?

 

東京は、2020年オリンピック、パラリンピックの開催を控えている。MICEの視点でその影響を聞いたところ、さまざまな意見があるとした上で、「2020年、東京ビッグサイトは使えない」「MICEでいう、Convention、Exhibition/Eventへの影響は大きい・・」とした。一方で「その時期に東京へのIncentiveは増える」。さらに、オリンピック、パラリンピックの開催で東京の注目度は上がり、その注目を集めている中、東京で国際会議をしたいと考える主催者も多いとし、「2020年以降の大型の国際会議の問合せも増えている」(戸田氏)とした。

オリンピック
オリンピック

 

今後、ますます増加するMICEの開催数。主催者同士が参加者を奪い合う形になるケースもあり、主催者は参加者にいかに満足してもらえるかが重要となる。「Face to faceにおける感動体験をどう提供していくか」だ。そのためには、「良いパートナーをきちんと選び、プロの専門家に任せる部分は任せる」「早い段階で計画を立てておく」(戸田氏)が重要とし話を締めくくった。(BizMICE編集部)

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